古くは皇室や朝廷の信仰も厚く、現在では「たにぐみさん」の愛称で親しまれ、春の桜、秋の紅葉の名所として大勢の人々が訪れるお寺です。そんな華厳寺をご紹介しましょう。
華厳寺とは
山号:谷汲山(たにぐみさん)
寺号:華厳寺(けごんじ)
宗派:天台宗
本尊:十一面観世音菩薩(じゅういちめんかんぜおんぼさつ)
開祖:豊然上人(ぶねんしょうにん)・大口大領(おおぐちだいりょう)
寺伝によりますと、平安時代初め798年、奥州会津の豪族大口大領は、文殊堂に7日間参籠し、十一面観世音菩薩像を建立するための霊木を得ました。大領は京の都に上り、高名な仏師に観音像を造らせ、奥州へ運んでいました。その途中、観音像が自ら草鞋をはき歩き出したのです。そして、谷汲の地に着いた時、一歩も動かなくなりました。
そこで、大領は柴の庵を結び、山中で修行をしていた豊然上人と力を合わせて堂宇を建て、観音像を安置したのが始まりです。すると、堂近くの岩穴から油が湧き出したので、末永く灯明に用いました。
この霊験を醍醐天皇(885~930年)が伝え聞き、「谷汲山」の山号と「華厳寺」の扁額をくだされました。観音像には華厳経が書写されていたことから、寺号を「華厳寺」としたそうです。
944年には朱雀天皇(923~952年)の勅願寺となり、その後、西国三十三所観音霊場巡礼の中興の祖とされる花山法皇(968~1008年)が巡幸され、33番札所の満願所と定められたと伝えられています。
華厳寺の見どころ
参道
左右にソメイヨシノやカエデが植えられ、土産物店や飲食店などが並ぶ約1㎞の参道です。春の桜、秋の紅葉の名所となっています。
仁王門
江戸時代中期の再建。入母屋造、三間の二重門。木造金剛力士像が迎えてくれます。
左右の奉納された巨大草鞋は圧巻です。
百度石
仁王門から本堂へと向かう参道の途中に置かれた百度石。何かを祈願して本堂とここまで御百度を踏んだ人に思いを馳せてみました。けっこうな距離と石段があるので、かなりハードな御百度だと思います。
三十三観音にちなんで、“三十三度石”もありました。
手水舎
観世音菩薩坐像から流れる水で、手と口をすすぎます。
観世音菩薩像
奉納された大きな観世音菩薩像です。
このような奉納された仏像や石碑があちこちに見られます。
本堂への石段
鐘楼堂
本堂の右手にあります。袴腰のカーブがきれいな鐘楼堂です。
本堂
明治時代初期の再建。入母屋造。正面五間、側面四間の外陣。
その奥に内陣があります。
本尊は十一面観世音菩薩立像。榎の一木造で、像高は約2.5m。像身に華厳経が書写されており、衣には三千仏像と諸仏の三昧耶形が描かれている特異な姿だそうです。
秘仏で、最近では、花山法皇一千年忌の「結縁開帳」として、2009年3月1日~3月14日まで、54年ぶりに開帳されました。
十一面観世音菩薩は、十一の顔で八方と天地を常に観て、衆生の声を聴いて救ってくれます。病気や災難から守るなど10種類の現世利益と、極楽浄土に生まれ変わるなど4種類の後世利益を授けてくれるとされています。
なんといってもここが第一のパワースポットです。
脇侍として、不動明王像と毘沙門天像(重要文化財)が祀られていますが、こちらも非公開です。地下に戒壇巡りがあります。
向拝の左右の柱に銅製の「精進落としの鯉」が打ち付けられています。
西国三十三所観音霊場巡礼を満願した人は、本堂左奥の満願堂をお参りし、満願の報告をした後、この鯉に触れて精進の日々から俗界に戻るという習わしがあります。
笈摺堂(おいずるどう)
本堂の左手にあり、花山法皇が笈摺(半纏状の白い上衣)、杖、三首の御詠歌を奉納したと伝わるお堂です。
それ以降、巡礼を終えた人が笈摺や御朱印帳、千羽鶴などを奉納するようになりました。千羽鶴は“おりづる”が“おいずる”に通じるとして奉納されるのだそうです。
子安堂(こやすどう)
笈摺堂の左隣にあります。本尊は子安観音で、安産・子宝授け・赤ちゃんの健康などを祈願して、よだれかけが奉納されています。
満願堂
子安堂からさらに三十三段の階段を上った所にあります。
本尊は、木造十一面観世音菩薩像。一木造、像高約2.2m。平安時代前期の作と推定されます。巡礼者はここに願い事を書いた納札(おさめふだ)を納めます。
ここが二つ目のパワースポットです。
なぜかこの周辺には狸の石像がたくさん並んでいます。
狸地蔵も。
“見ざる聞かざる言わざる”にちなんだ“三たぬき”もあります。
ごろりと寝ころんだほていさんも。つい大きなお腹を撫でたくなります。
さらにここから40分ほど山を登ると、奥の院があります。
御朱印
花山法皇が詠まれたという三首の御詠歌にちなんで、三つの御朱印をいただけます。
本尊を祀る本堂(観音堂)の御詠歌は、「世を照らす仏のしるしありければまだともしびも消えぬなりけり」で、「現世」を意味するとされます。中央の墨書は、観音様がいらっしゃる場所を表す「大悲殿」。
満願成就を報告する満願堂の御詠歌は、「万世(よろずよ)の願いをここに納めおく水は苔より出(いづ)る谷汲」で、「過去世」を意味するとされます。中央の墨書は「満願堂」。
巡礼を終えた人々が巡礼用品を奉納する笈摺堂は、「今までは親と頼みし笈摺を脱ぎて納むる美濃の谷汲」で、「未来世」を意味するとされます。中央の墨書は「笈摺堂」。
本堂内右手の納経所(8:00~16:30)でいただけます。納経料は各300円です。
拝観時間
拝観時間:8:00~16:30
納経時間:8:00~16:30
入山料:無料
アクセス
華厳寺
〒501-1311 岐阜県揖斐郡揖斐川町谷汲徳積23
☎ 0585-55-2033
・JR東海道本線「大垣駅」乗り換え、樽見鉄道(約40分)で「谷汲口駅」下車、
名阪近鉄バス・揖斐川町コミュニティバス(谷汲山行き、約10分)「谷汲山」下車。
・JR東海道本線「大垣駅」乗り換え、養老鉄道(約25分)「揖斐駅」下車、
名阪近鉄バス・揖斐川町コミュニティバス(谷汲山行き、または横蔵行き、約25分)「谷汲山」下車。
まとめ
華厳寺はいかがでしたでしょうか。
何かの目的を持って始めたことがここで結願すると思うと、だれもが心はずむことでしょう。うず高く積まれた笈摺やたくさんの千羽鶴が奉納された笈摺堂の前に立った時、何万人もの霊魂が宿っているように感じました。観音様はそれぞれの願いを聴き、救ってくださったことでしょう。
満願堂で報告をした後、本堂の柱の「精進落としの鯉」に触れる人々の表情は、明るく童心にかえっていました。私も晴れ晴れとした気分で、石段を下りる足取りも軽く、1㎞の参道も短く感じました。
春の桜や秋の紅葉見物に、あるいは観音様のご利益をいただきに、皆さんも是非訪れてみてはいかがでしょうか。
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