「是でこそ 登りがひあり 山桜」
急な73段の石段を登り切って山門に入ると、おりから桜が美しく咲いていました。その時、「ああ、これでこそ登ってきた甲斐があった」と感動を表した俳句だと言われています。寛政7(1795)年、江戸時代の名俳人である小林一茶が詠んだこの句の通り、四国65番札所である三角寺(さんかくじ)は、樹齢300年から400年の桜が咲き誇る名所として知られています。
標高430mの平石山の中腹にあり、境内は落ち着いたたたずまいをしています。そんな三角寺について、歴史や御朱印、見どころを紹介していきます。
三角寺の歴史
縁起によると、かの有名な聖武天皇(在位724〜49)の勅願により、高僧行基が弥勒の浄土を具現化するため、開創したのがはじまりだそうです。
弘仁6年(815)に弘法大師が来訪し、本尊である十一面観音像を彫り上げて安置されました。大師は十一面観音像と共に不動明王像も彫り上げ、国家繁栄と万民の幸せを祈願して「降伏護摩の秘法」を修法しました。
修法にあたり大師は三角の護摩壇を築いたといわれ、それが寺院名の由来になっています。護摩壇の跡は庫裡(くり、仏教寺院における伽藍のひとつ)と薬師堂の間にある「三角の池」の中の島として現存しています。
嵯峨天皇の時代には厚い帰依を受け、寺領300町歩をいただくなど時運は興隆。しかし16世紀には、長曾我部軍の「天正の兵火」によってご本尊以外が焼失します。
ふたたび本堂が建てられたのは嘉永2年(1849)のこと。昭和46年には修復を終え、現代まで語り継がれる四国霊場となっています。
三角寺のご利益
三角寺のご本尊は十一面観音です。「十一面観音菩薩」、「十一面観世音菩薩(じゅういちめんかんぜおんぼさつ)」などの呼び名がありますが、すべて同じ十一面観音を指します。
「観音」という言葉には「人々の声を広く見聞きする」という意味があります。人々が困っているときには、どんな姿に変わってでも救い上げよう。そうした意味を込めて、なんと33もの姿に変身できるといわれています。十一面観音もまた、その形態のひとつというわけです。
見た目の特徴といえばやはり、頭についたたくさんの顔でしょう。その名のとおり、顔の上には10もしくは11の面があり、360度全体を常に見渡すことで、人々のどんな苦難をも見逃さないという意味が込められています。
悟りに至った如来とは異なり、修行中の姿を表しているのが菩薩です。そのため、より人に近い姿で描かれることが多く、十一面観音もきらびやかな服装をして、ネックレスなどの装飾品を身に着けています。
十一面観音のご利益は十種勝利と四種果報とされています。前者は10種類の現世利益、後者は4種類の後世利益を指します。そのご利益は幅広く、いわば仏像界のオールラウンダーというわけです。
三角寺の御朱印
静かな山中に建つ四国65番札所、三角寺。御朱印は境内にある納経所でいただくことができます。まずはご本尊への参拝を済ませてから、御朱印をいただくのがマナーです。
こちらが三角寺の御朱印です。揮毫は十一面観音の種字である「キャ」に「大悲殿」です。中央の宝印には蓮台上の火炎宝珠に、サンスクリット語の「キャ」が描かれています。
「大悲」は観音菩薩の別名であり、人々を苦しみから救い出そうとする広大な慈悲の心を指します。ゆえに「大悲殿」とは、観音菩薩が安置されている建物のこと。とはいえ、建物自体に名付けられるケースは少なく、観音菩薩が祀られている本堂または観音堂を指すことが多いです。
御朱印に「大悲殿」と描かれるケースもあまりないことから、すこし特別な気分にさせてくれる御朱印です。
三角寺の見どころ
鐘楼門
鐘楼門に向かうまでの道のりは狭く、大型バスでは通ることができません。石段も急なうえに幅が狭いので、足元にお気を付けください。石段の途中には写真のような石寺標があります。

70段の石段を上った先の鐘楼門です。
客殿・休憩所

鐘楼門をくぐった正面に客殿が見えます。

入って左側にはトイレと休憩所があります。6角形の屋根が特徴的なこの休憩所で、ひと息つくのもいいでしょう。
薬師堂

疣(いぼ)や魚の目(うおのめ、足裏等にみられる皮膚病)を治すご利益があると伝えられています。魚の目の治癒には、タコの絵が描かれた絵馬を奉納して祈願するのがならわしだそうで、タコの吸盤が魚の目をとってくれるのだとか。
三角池

寺院名の由来となった三角池です。周囲は10mほどで、奥には「大辨天」の祠があります。

本堂

十一面観音が安置されています。三角寺の十一面観音さまは古くから「開運厄除け、安産子安の観音さん」として知られ、多くの信仰を得てきました。ご祈祷のお守りには腹帯が授けられます。
また、子宝に恵まれない夫婦は寺で「子宝杓子」を授かり食事することで、子宝に恵まれるといいます。そうして子どもを授かったのち、新しい杓子と授かった杓子をもって参拝するのだそうです。
大師堂

大師堂は、本堂よりも一段高いところにあります。
御賓頭盧

「おびんずる」と読みます。お釈迦様の弟子のひとりで、神通力に優れていたと伝えられています。
多くの場合、御賓頭盧は本堂または大師堂の縁側にありますが、三角寺では鐘楼門を入ってすぐの左側に安置されています。
まとめ
「是てこそ 登りかひあり 山桜」
四国65番札所、三角寺についてご紹介しました。さすがは名所というだけあって、春には満開の桜が咲き誇ります。寺院らしい静かな雰囲気も魅力的です。
きっと、みなさんの心も安らぐことでしょう。ぜひ、足を運んでみてくださいね。
