
福岡県北九州市戸畑区の戸畑祇園大山笠行事(とばたぎおんおおやまがさぎょうじ)は、2016年12月、全国33の「山・鉾・屋台行事」の一つとして、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。また、博多祇園山笠(同じく、ユネスコ無形文化遺産に登録)、小倉祇園太鼓とともに、福岡県夏の三大祭りの一つにも数えられています。
214年の歴史を持つ戸畑祇園大山笠の最大の特色は、大観衆の目の前で昼と夜の姿をあざやかに変えていくところにあります。戸畑祇園大山笠とはどのようなお祭りなのでしょうか。お祭りの特色や見どころについてご紹介します。
戸畑祇園大山笠競演とは

- 戸畑祇園大山笠競演は、7月の第4土曜日
- 飛幡八幡宮(とびはたはちまんぐう)から東大山笠と西大山笠
- 中原八幡宮(なかばるはちまんぐう)から中原大山笠
- 菅原神社から天籟寺大山笠(てんらいじおおやまがさ)の4基が出されます。
さらに、それぞれの地区の中学生が担ぐ一回り小さい小若山笠(こわかやまがさ)が4基出され、合計8基の山笠が一同に会して行われます。
その見せ場の一つ目は、昼の幟山笠(のぼりやまがさ)から、12段309個の提灯をつけたピラミッド型の夜の大山笠に変身させるのを競うところです。
観衆の目の前で山笠の姿を変えていくというのは、他のお祭りにはありません。
幟山笠(のぼりやまがさ)について
昼の幟山笠は、伝統的な工芸技術で装飾された、格調高く優美な姿です。高さ1.8メートルの台上に、約2メートル四方の匂欄付の台座を据えて、その中央にご分霊を納めた祠が置かれます。その周囲に紅白のラシャの布地に黒のビロードの縁取りをした12本の幟が立てられます。
こちらの写真は、戸畑祇園大山笠振興会副会長の自見榮祐さまからご提供いただきました。
そして、正面に白の奉書紙で作った菊花の「前花」が上下に各1対
出典:「戸畑祇園大山笠」(戸畑区役所総務企画課発行 2017年度パンフレット)
後ろには「見送り」という直径約1.5メートルの円型の台に、鷲・布袋・虎・獅子と、それぞれ山笠ごとに異なる刺繍が施された幕を取り付けたものが飾られます。台枠の組み立ては釘やボルトを1本も使わず、山から採ってきた藤葛で締めます。
出典:「戸畑祇園大山笠」(戸畑区役所総務企画課発行 2017年度パンフレット)
黒漆塗りに彫刻が施された匂欄や
出典:「戸畑祇園大山笠」(戸畑区役所総務企画課発行 2017年度パンフレット)
赤いラシャの布地に勇壮な武者絵などが金糸銀糸で刺繍された水引幕・前掛幕・切幕などの幕類が伝統を感じさせます。
出典:「戸畑祇園大山笠」(戸畑区役所総務企画課発行 2017年度パンフレット)
さらに、数百本の「てまりこ」が台上に並べられます。「てまりこ」は、赤・白・黄・緑の奉書紙や染紙で球形に作ったものを竹の先に付けて、紅白の幣を垂らしたものです。
出典:「戸畑祇園大山笠」(戸畑区役所総務企画課発行 2017年度パンフレット)
ご祝儀のお礼として氏子に渡され、もらった人は魔除けとして家の中に飾ります。また、各山笠とも多くの御幣を並べ、山笠行事が終わると、関係者に渡します。
出典:「戸畑祇園大山笠」(戸畑区役所総務企画課発行 2017年度パンフレット)
山笠本来の姿といわれる幟山笠は、このように格調高く優美な姿なのです。
出典:「戸畑祇園大山笠」(戸畑区役所総務企画課発行 2017年度パンフレット)
戸畑祇園大山笠競演の様子
2017年7月22日(土)午後6時から、戸畑区役所前の浅生1号公園で、ユネスコ無形文化遺産に登録が叶って初めての競演会が行われました。中央の特設ステージ前で、伊勢神宮、出雲大社、宇佐神宮から御祝いの演目が披露され、開会式の後、幟山笠が運行されました。
そして、夕陽が沈んで辺りが暗くなり始めた午後7時ごろいよいよ競演開始です。三角形の競演会場を囲むように4基の幟山笠が位置につきました。小若山笠は競演会場脇の道路で行うようです。格調高く優美な幟山笠から飾り物をすべて取り外し、台座の上に高さ4メートルの4本の柱が固定され、司会者の発声とともに競演がスタートしました。
最初に、固定された柱の上に、5段57個の提灯をつけた高さ約3メートルの角錐型の先端部を一気に担ぎ上げる「五段上げ」を行います。

長い棒を使って何人かで上げるのです。台座の柱に乗っている人も、長い棒で「五段の提灯先端部」を持ち上げる人も、観衆も息を呑む瞬間です。提灯にはろうそくの火がともっています。傾けば提灯に火が燃え移ります。持ち上げる人々の息が合わなければたちまち角錐型の先端部はひっくり返ってしまいます。
柱の上で受け取る人もバランスをくずせば山笠から落ちてしまいます。手に汗を握る瞬間です。

無事に先端部が取り付けられると、6段目、7段目というように順次12段目まで手際よくみるみるうちに提灯が取り付けられていきます。

十段目が取り付けられ、あともう一息です。
あちこちで「わぁー!」と歓声が上がり、拍手がわき起こりました。どの山笠が一番早く変身したのか私にはわかりませんでした。それくらいわずかの差だったと思います。8基の提灯山笠が完成しました。夜の闇にピラミッド型の提灯山笠が煌々としています。
再び司会者の発声で、山笠が動き出しました。

大山笠は、高さ10メートル、重さ2.5トンもあります。それを車も付けずに、約80人のかきこ(担ぎ手)で小走りに、三角形の会場をぐるぐる何周も回るのです。これが二つめの見せ場です。

台座の上では囃子方が鉦や太鼓で「おおたろう囃子」を奏でます。そのリズムに合わせて、かきこの男達の「ヨイトサ、ヨイトサ」のかけ声が響きます。その光景は、美しく、勇壮でした。
私は、かきこたちの小走りの足の運びに惹かれました。密集状態でよくあれだけ足並みをそろえられるものだなあと何度も感心しました。一人でもつまずいたり、ころんだりしたら山笠全体のバランスが崩れます。ハラハラドキドキしながら観ていました。
大人たちが担ぐ大山笠に混じって、少し小さめの山笠が通りました。中学生たちだけで担ぐ小若山笠です。

懸命に担いで、小走りに通っていく姿はなんとも初々しく、胸が熱くなりました。山笠の伝統を伝える世話役さんたちと自治会やPTAが協力して、放課後や休日に練習を重ねてこの日に臨むそうです。
それぞれの地域の大山笠にお供して3日間のお祭り行事に参加するそうです。こうして後継者を育てていくのですね。
そして、三つ目の見せ場、クライマックスは、大山笠4基による自由競争です。それまでは順番通りに回っていたのですが、自由競争では、前の山笠を追い抜いてもいいのです。ですから当然スピードを上げて回ります。しかし、バランスが少しでもくずれると山笠が傾きます。それを立て直している間に、後ろの山笠が追い抜こうとします。
横に2基の大山笠が並びました。傾く山笠に「ガンバレ!ガンバレ!」と観覧席から声援が上がります。追い抜こうとする山笠にも「ガンバレ!ガンバレ!」と声が上がります。それぞれの地域から出ていますから応援する山笠があるのでしょう。かきこはもちろん必死です。観衆も大興奮です。
提灯の中はろうそくの火ですから提灯に燃え移ることもあります。その時は、山方が燃える提灯をたたき落として消すのです。危険と隣り合わせのなんとも熱く、豪快なお祭りです。

九州でこのような大きな祭りがあり、しかもユネスコに登録されているとは知りませんでした。
提灯、のぼり等で大きなだしすごい迫力でしょうね、写真でも想像できます。又学生たちも参加しているとはすばらしいですね、次世代に繋がっていくでしょう。いろいろな情報もあり良い記事でした。有難う
ご訪問ありがとうございます。本当にこのお祭りはユニークで美しく、勇ましいお祭りです。中学生だけで担ぐ山笠はなんとも初々しく、胸がキュンとなりました。高校生以上は大人と一緒に担ぐようです。来年も7月第4土曜日が競演会だと思いますので、是非お出かけください。一見の価値がありますよ。