長野駅から路線バスで1時間余の戸隠(とがくし)。天の岩戸の神話にまつわる霊山戸隠山のふもとに点在する戸隠神社は、古くは修験者の道場として栄えました。近来は特に奥社の森林と杉並木が醸し出す神秘的な雰囲気を求めて訪れる人々が増えています。老若男女に愛される戸隠神社の魅力をご紹介しましょう。
目次
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戸隠神社とは
奥社・中社・宝光社・火之御子社・九頭龍社の五社の総称です。
奥社(おくしゃ)
天手力雄命(あめのたぢからをのみこと)
中社(ちゅうしゃ)
天八意思兼命(あめのやごころおもいかねのみこと)
宝光社(ほうこうしゃ)
天表春命(あめのうわはるのみこと)
火之御子社(ひのみこしゃ)
天鈿女命(あめのうずめのみこと)
高皇室御霊命(たかむすびのみこと)
栲幡千々姫命(たくはたちちひめのみこと)
天忍穂耳命(あめのおしほみみのみこと)
九頭龍社(くずりゅうしゃ)
九頭龍大神(くずりゅうのおおかみ)
戸隠神社の歴史
戸隠神社は『古事記』や『日本書紀』に記されている「天の岩戸」の神話に関係する神々が祀られています。神社の由緒から概略しましょう。
天照大神(あまてらすおおみかみ)は、弟の須佐之男命(すさのおのみこと)の数々の乱暴に怒り、天の岩戸に隠れてしまいました。すると世の中は真っ暗闇になり、大混乱しました。困った神々は相談して、大神を外へ引き出すために、歌や踊りを催しました。天鈿女命(あめのうずめのみこと)の神がかりの踊りに神々が大喜びし、笑い声をあげました。
大神は、“自分が岩戸に隠れて暗闇のはずなのに、外の賑わいは何だろう”と気になり、少し岩戸を開いてのぞいたところを、脇に隠れていた天手力雄命(あめのたぢからをのみこと)が、力いっぱい岩戸を開けて、大神の手をつかんで引き出しました。再び大神が岩戸に隠れると困るので、その岩戸をつかんで「エイッ」と持ち上げて下界へ投げ捨てました。それが信濃の国に飛んでいき、戸隠山になったのです。
『古事記』『日本書紀』には戸隠山のことは記されていませんが、室町時代に編纂された『戸隠山顕光寺流記(とがくしさんけんこうじるき)』などに記されているそうです。なるほど、怪力の天手力雄命が“岩戸を天照大神から隠した山”という神話と、戸隠山の名称がぴったりします。
平安時代前期894年ごろ、学問行者が修験を始めたのが戸隠寺(奥院)の起源といわれています。そのころの戸隠の神は、農耕の水を司る「九頭龍」でした。
平安時代後期以降の神仏習合時代は、戸隠山顕光寺となり、修験道場「戸隠十三谷三千坊」として、比叡山、高野山とともに「三千坊三山」と言われるほど山岳信仰の修行の場として繁栄しました。1058年に宝光院、1087年に中院が開かれました。
平安時代末期、後白河法皇によって編まれた歌謡集の『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』に「四方の霊験所は、伊豆の走り湯、信濃の戸隠、駿河の富士の山、伯耆の大山、丹後の成相とか。」とあり、戸隠は霊験所として知られていました。
室町時代は、善光寺参詣に続いて戸隠へもお参りするというように、善光寺信仰と一緒になって栄えました。
戦国時代は、武田信玄と上杉謙信の争乱に巻き込まれ、戸隠は荒廃しました。衆徒70余名は筏が峰(現長野県上水内郡小川村)で避難生活を余儀なくされ、30年後に戸隠に帰りました。
江戸時代になって、徳川家康から千石の神領が寄進され、天台宗東叡山寛永寺の末寺になりました。中院、宝光院の門前にも多くの院坊が立ち並び、門前町として栄えました。
明治時代になって新政府の神仏分離政策により、戸隠山顕光寺は寺を廃して、戸隠神社として歩むことを選びました。そして、奥院を奥社に、中院を中社に、宝光院を宝光社に名称を改め、現在に至っています。
宝光社(ほうこうしゃ)
元は奥社に祀られていましたが、1058年にこの地に遷されました。ご祭神は天表春命(あめのうわはるのみこと)で、中社のご祭神である天八意思兼命(あめのやごころおもいかねのみこと)の御子神が祀られています。
開拓・学問・技芸・裁縫・安産などのご神徳があり、女性や子供の守り神としても尊信されています。
宝光社の鳥居
木製の鳥居です。ここから225段の石段があります。
狛犬と石段
鳥居をくぐると狛犬が迎えてくれます。石段はかなりの傾斜で、後半きつくなりますが、ゆっくり一段一段登りましょう。途中に傾斜がゆるやかな女坂もあります。
社殿
石段を登りきると、無彩色ですが、彫刻が美しい社殿が迎えてくれます。五社の社殿のうちでは最も古く、江戸末期1861年の建立です。神仏習合時代の面影を残す寺院建築の様式を取り入れた権現造りです。屋根は銅板葺き、間口5間、奥行き7間の深い構造は社殿建築では少なく貴重な存在だそうです。
拝殿周りの彫刻
彫師北村喜代松による彫刻で、獅子・龍・鳳凰・麒麟・十二支などが彫られています。木鼻の獅子が迫力あります。
神輿庫(みこしくら)
戸隠神社の式年大祭で使われる神輿が保管されています。式年大祭は丑年(うしどし)と未年(ひつじどし)の6年ごとに行われます。2021年5月、世情から規模を縮小して行われました。
昔は奥社まで神輿が渡御されたそうですが、現在は、宝光社から中社へ神輿が渡御され、宝光社の御子神が、中社の父神に会いに行きます。次回は2027年です。
宝光社御朱印
世情から御朱印は書置きで初穂料は400円でした。こちらでは女性の身を守り、子宝に恵まれるように祈願された「おみな守」が授与されます。社務所でいただけます。
火之御子社(ひのみこしゃ)
宝光社から戸隠古道、神道(かんみち)を通って徒歩約15分。
創建は1098年ごろで、天の岩戸の前で舞を舞った天鈿女命(あめのうずめのみこと)を主祭神とし、他に三柱が祀られています。
神仏習合時代もここは神社としての姿を保ちました。天鈿女命の舞が神楽(かぐら)の発祥となり、その子孫が神の託宣を伝える巫女(みこ)として宮中や諸社の儀式に参加したと伝えられています。そうした関係で、舞楽芸能上達、開運、縁結び、火防の守り神として尊信されています。
長野県指定無形民俗文化財に指定されている「太々神楽(だいだいかぐら)」は、この神社に仕えていた社人によって伝えられてきました。
鳥居
石製の鳥居です。
社殿
社殿は、1884年に再建され、2005年に修復されました。鉄板葺きの入母屋造り。素朴な可愛らしいお社です。
夫婦杉(めおとすぎ)
社殿の左手奥にあります。樹齢約500年の大杉は、二本の木の根本が一つになっています。仲のいい夫婦のようです。木肌に触れてパワーをいただきましょう。
西行桜(さいぎょうざくら)
社殿の右側にあります。こんな話が伝わっています。
平安時代後期の歌人西行法師がある年の5月、善光寺参りのあと、戸隠へ参ろうとして火之御子社にさしかかりました。地元の子どもたちが遊んでいましたが、西行の姿を見ると、するすると桜の木に登ってしまいました。子ども好きな西行は、いたずら心から“猿のような子どもたちだなと思う間に木に登ってしまったよ”と子どもたちに声をかけました。するとどうでしょう。“犬のようなお坊さんがやってきたからだよ”と答えるではありませんか。
西行は子どもたちの賢さに驚き、いたずら心を起こした自分を恥じ、“これ以上神域に立ち入ったらどんな恐ろしいことが起こるかわからない”と、火之御子社から戸隠山を遥拝して引き返しました。(「西行桜」立札より)
“犬猿の仲”という言葉にまつわるトンチがおもしろい伝説です。ちなみにこの桜は自生種のオオヤマザクラです。
火之御子社御朱印
火之御子社には社務所がありませんので、宝光社か中社で火之御子社のお参りを済ませてからいただきます。初穂料は書置きで400円。
「芸能上達守」も中社社務所でいただけます。
中社(ちゅうしゃ)
火之御子社から神道(かんみち)を通って徒歩15分ほどです。路線バスは「戸隠中社」下車。門前には立派な宿坊やレストランなどがあり、戸隠参詣や観光の中心です。
ご祭神は、知恵の神様天八意思兼命(あめのやごころおもいかねのみこと)で、神楽を考え、天の岩戸を開くきっかけを作った神様です。
学業成就、試験合格、商売繁盛、開運、家内安全の守り神として尊信されています。
社殿の右側に宝物館と参集館が併設された青龍殿があり、戸隠信仰の歴史などを見ることができます。
大鳥居
2021年の式年大祭にむけて、2020年11月、84年ぶりに高さ11m、ヒノキ製の大鳥居が建て替えられました。木肌もきれいな鳥居に見とれてしまいました。
狛犬
迫力ある阿形の狛犬とユーモラスな吽形の狛犬、それぞれ2基ありました。
手前が古いものでしょう。
社殿
1087年に奥社から遷されました。1852年に再建された社殿は、雪崩や火災に遭い、現在のものは1955年に再建されたものです。銅板葺き、入母屋造り、間口5間、奥行き7間で装飾は控えめです。
社殿の「龍の天井絵」は、幕末から明治にかけて活躍した狩野派の天才絵師河鍋暁斎(かわなべきょうさい)により1865年に描かれましたが、1942年に焼失し、2003年にデジタル技術により復元されたものです。
三本杉
中社には大鳥居を囲んで正三角形状に三つの三本杉があります。こちらはいの杉で、樹齢800年を超えるそうです。三本の杉が長年月の間に一つになったものか、元々一本の杉が途中から三つに分かれたのか、不思議です。静かに祈ってパワーをいただきましょう。
ろの杉とはの杉も探してみてください。
ご神木
樹齢700年を超えるご神木です。こちらもパワーをいただきましょう。
さざれ滝
社殿の右にあります。命の源である水を司る龍。龍が勢いよく滝つぼに向かっているかのように見えます。
そばに「龍神」の碑がありました。パワースポットです。
境内から石段を見下ろす
上から見るとかなり急勾配の石段です。
中社御朱印
社務所でいただけます。初穂料は書置きで400円です。
中社の御守は、龍の天井絵が織り込まれた「運気向上・金運招福守」です。
こちらの社務所で火之御子社の御朱印や「芸能上達守」もいただけます。
