不思議な人物、小野篁(おののたかむら)について聞いたことがあるでしょうか?
公卿であり、役人でありと、いくつもの顔を持ちつつ、なんと冥界の役人でもあったと言われる小野篁。その素顔とはいったいどのような人物なのでしょうか?
小野篁とは
小野篁は平安時代前半に生きた人物で、小野妹子の子孫とされています。若い頃は父に従って赴いた陸奥の国で、弓馬を得意として活躍していましたが、のちに学問に励み、和歌、漢詩、武芸にも非常に優れていたので、嵯峨天皇に仕え、官職を歴任して出世をします。
ところが遣唐副使に命ぜられるも、遣唐使の藤原常嗣が、自分が乗るはずの船が壊れてしまったので、小野篁が乗るはずの船に勝手に乗り換えようとしたことに腹を立てて対立し、小野篁は仮病を使って渡航を拒否してしまいます。ほかにも朝廷に対する批判を詩にしたことで、嵯峨上皇の怒りを買い、隠岐に島流しにされてしまいます。
やがて許しを得て、2年後に京に戻ると要職を歴任し、847年には参議として公卿という高い位に着くも、853年に他界してしまいます。
小野篁と閻魔大王
役人として活躍を続けた小野篁は、実は夜になると六道珍皇寺という寺内にある井戸を通って地獄の閻魔庁に出かけ、閻魔大王の下で裁判の補佐を務めていたと言われています。
もともとは、自分の母が亡くなり、非常に親孝行だった小野篁は、その母に会うために冥土に通い始めたのでした。そこで苦しむ母をなんとか救おうとして閻魔大王に直談判したのがそもそもの始まりでした。そして閻魔大王のもとで、いわば今でいう、被告人の弁護士のような仕事をすることになり、命を落とした人間を裁こうとする閻魔大王に、その人間を弁護し、とりなしていたのでした。
小野篁が非常に世話になった藤原良相(ふじわらのよしみ)という上司が重病で他界したときにも、良相を裁こうとした閻魔大王に、小野篁がなんとか助けてやってもらえるようにと掛け合ったことで、なんと藤原良相は蘇生することができたのでした。
小野篁の逸話
小野篁については「今昔物語」など、いろいろな資料の中で語られています。いずれにも、小野篁が朝廷の役人と冥界の役人を兼ねていたと記されているのです。
また、嵯峨天皇の時代に「無悪善」という落書きがされていたのを、小野篁が「嵯峨天皇がいなければよいのにという意味である」と説き、そのように読めるのは小野篁がその落書きを書いた本人に違いないからだと嵯峨天皇が立腹し、「子子子子子子子子子子子子」という文字を書いたものを読むようにという、なぞなぞを小野篁に出したところ、「猫の子の子猫、獅子の子の子獅子」と見事に読み解いたことで、ことなきを得たという逸話も、これらの資料に残されています。
このほか、中国唐の時代の文学者、白居易の詩集である「白氏文集」が、まだ日本に1冊しか存在しなかった頃、天皇が白居易の詩の一文字だけを変えて小野篁に渡したところ、彼は見事にその一文字のみを書き直して返したのでした。
小野篁と紫式部
源氏物語という色恋の話を書いた紫式部は、亡くなった後に地獄に落とされたとされています。つまり彼女が書いた色恋の話で、人々の心を惑わせた罪ということだったのです。
小野篁は853年にこの世を去り、紫式部は973年頃の誕生ですから、ふたりには面識も接点もありません。しかし現在、紫式部と小野篁のお墓は京都の西陣の北の、お寺でもなんでもない場所で並ぶように建てられているのです。
実はこれは紫式部のファンだった人々が、小野篁のお墓の横に紫式部のお墓を建てることで、なんとか冥界で小野篁により紫式部を救ってもらおうと願って建てられました。そして紫式部は、小野篁の力により、あの世で地獄から救われたとされています。
小野篁を祀る六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)
京都の東山区にある六道珍皇寺というお寺には、小野篁が冥界に出かけるときに使っていたという、井戸が存在しています。そして近年、旧境内地より冥土からこの世に戻るのに小野篁が使っていた「黄泉がえりの井戸」も発見されています。
またこのお寺の山門前には「六道の辻」という石碑があるのですが、実はここがあの世とこの世の境目であることを示しているのです。
この「六道」というのは、仏教において六道輪廻の死後の世界のことであり、地獄道、飢餓道、畜生道、修羅道、人道、天道の六つの世界のことなのです。生き物は死後に生前の行いにより、この六つの世界を輪廻転生すると言われています。そしてこの六道珍皇寺の境内には、古代よりあの世とこの世の接点があり、冥界への入口に当たるというわけです。
まとめ
いかがだったでしょうか?
平安時代の実在の人物である小野篁が、朝廷の役人と冥界の役人を兼ねていたという、実に不思議なお話しです。
文武両道に優れ、しかし金銭にはこだわらず、やや変わった性格であったとされる彼ですが、その冥界での活躍ぶりを信じるに足りるだけの逸話も残されているのです。
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